エフィメラ(或いは邂逅)
恋月 ぴの

とうとう動かなくなってしまった
トパーズ色した わたしの鍵
普段持ち歩いているバッグの中で
かさこそ這いまわりながら
わたしの吐き出す
あのひとへの恨みとか辛みとか
どうしようもない思いを食べてくれた
トパーズ色した わたしの鍵
夜毎 バッグの中より這い出ては
複雑に刻まれた鍵山で
手が届きようもない鍵穴の奥に溜まった
鬱屈した涙の滓を掻き出してくれて
寂しがりやのわたしを優しく慰めてくれて
あのひとに足りないものを知っていた
トパーズ色した わたしの鍵
今は薄墨色した殻を身にまとい
銀色の細い糸でファスナーに支えて
その時をじっと待っているように思えた
わたしは生まれたままの姿で
窓際のベッドに横たわり
鍵の入ったバッグをそっと抱きしめてあげる
満月の湿った舌先は心地よさを誘い
胎児みたいにわたしは丸くなってみる
トパーズ色した わたしの鍵
夢の正体はことばなんだと
あのひとは教えてくれた
背を伸ばしては鍵穴を覗き込み
両親の交わるかたちに魅せられて
幼い頃のわたしはそんな夢に耽っていた
その時を背中に感じて眼を覚ますと
肩甲骨辺りを張り裂けるような激痛が走り
鱗粉の煌めき鍵穴に残して
羽ばたいては わたしのからだ
満月の湿った舌先でゆらゆらららと舞う


自由詩 エフィメラ(或いは邂逅) Copyright 恋月 ぴの 2006-06-01 07:07:52
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