エイチピイ
半知半能

誰もこない部屋で
ひとりで待っている
時間がじりじりと
過ぎて
短い一日がおわり
部屋の前を通過する
人の数を
ため息の分だけふやす

月がのぼる

部屋を抜ける風に
カーテンがさざめく
誰もこないへやの
誰かが抱える
小さな段ボール箱には
大好きな飴とか
買ってきた新品のゴムボール
また会おうねと
伝えるための古い便箋が
ただ
入っている

月がのぼる

声が
聞こえたような気がして
そっと立ち上がり
耳をすませる
隣の部屋で
知らない誰かと
知っていたかもしれない
誰かが
いつまでか
話している
静かな部屋に
伝わる音がこだまして
こだました

月がのぼる

いつかくる
誰かを迎えるための
たのしい歌を練習して
短い一日がおわる
誰かがこない部屋には
明日も誰もこない
誰かがくる部屋には
明日も誰かくる
そういうことを
忘れないよう
いつか書いたメモが
部屋の隅で
くすんで

月がのぼる

少しの笑い声に
涙をながして
多くの生まれなかった別れを
惜しんでは
やってこなかった一日を
繰り返し
繰り返し
一呼吸に三千の祈りと
かなしみの既知感


欲望ということばの
ひたむきさ



風が運んできた砂粒には
知らない場所のにおいが



月がのぼって
雲が時間をきざむ
おぼろげに映った月の影が
部屋に落ちては
かき消えていった
 
 
 


自由詩 エイチピイ Copyright 半知半能 2006-05-28 01:00:53
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