夕焼けのコメットさん
AB(なかほど)



すぐにテレビ番組の真似をしていた僕らには
ほんとに魔法が使えたのだろうさ
まさみちゃんは七色のクロトンの枝を折って
くるり くるり と回して
スペシウム光線をかわし
ついでに みんなの心をかきみだして
授業がつまらない
部活がつまらない
夏休みの宿題がつまらない
ほんとの夢がその先にあったことは
気づいていたのか気づかなかったのか
もう一度
七色のクロトンの枝を回すには
掛け算も分数の足し算も必要なんだってさ
仕事がつまらない
会社がつまらない
ほんとの家庭ってこんなもんじゃない
いつから僕は
まさみちゃんのこと忘れてしまったのだろうか
いや忘れてなんかいないのさ
宿題はまだ終わっていない
分数の足し算のところから
いつのまにか
源泉徴収の計算をしながらでも
介護保険の算段をしながらでも
クロトンの枝がガサっと鳴る音が
心臓の側で
いまさら
心臓の側で
願いごとなんてあるわけじゃないのだけれど
もう一度 
あの頃のようにこたえてくれないかい
夕焼けのコメットさん
日暮れが近いよ


  


自由詩 夕焼けのコメットさん Copyright AB(なかほど) 2004-02-16 14:00:18
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夕焼けが足りない