武鯛の缶詰
あおば



落花生の缶詰、
手長海老の缶詰、
シラタキの缶詰、
押し合いへし合い
大勢が
狭いところに住んでいる
缶詰長屋に着いた。
長屋とはお屋敷内にあるのだと
思いながら
思いきり
空き缶を蹴っ飛ばす。

日当たりの良い中庭で
シーラカンスの缶詰が
重そうに泳いでるから
押し潰し下敷きにして
ざまあみろと言う顔で
ミロのビーナス高笑い

缶詰ラーメン冷やそーめん
お昼の支度が出来ました。

明太子の缶詰、
キタキツネの缶詰、
缶詰会社の缶詰、
カマキリの缶詰、
冷たい社会科の
缶詰の独り言
 缶詰の中で生まれ
 缶詰の中で育ち
 缶詰の中で死んだ
 蓋を撃ち開ける人は
 いつでも、どこにも居ないので
 かんづめのままで
 かんづめとなり
 かんづめになる

居眠りをしているときに
缶蹴りする子どもたちに
蹴っ飛ばされすっ飛んで
空高く飛んでいったのは
何処の誰だったのだろう。

大政翼賛会編纂の
缶詰の歴史の中でも
ノーベル賞ものとして
 絶賛されて
 図案化されて
 国旗にもなったので
居眠りするもの寄っといで
の声に痺れてしまって
命を無くすものが多くて
困るのですと。

シラタキの缶詰、
シーラカンスの缶詰、
大日本帝国の缶詰、
自堕落の缶詰が
一気呵成に
乱暴に
未完の缶詰を開けたがる
武鯛の缶詰

人気者。






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初出 めろめろ (32号2003/5/28発行)


自由詩 武鯛の缶詰 Copyright あおば 2006-05-19 01:56:12
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