カレーショップであなたに愛を告りたかった
恋月 ぴの

カレーライスが食べたかった
あなたと通った高田馬場早稲田通り
夕食にはちょっと早すぎたけど
なにげにカレーライスが食べたくなった
あなたの好きな福神漬けをたっぷり乗せて
おひやをスプーンでかき混ぜたかった
カレーショップの丸いすに腰掛けたかった
カウンター奥のいつもの丸いす
クッションは誰かのようにへたれてた
大きな穴をふさいだガムテープのはしっこで
いつまでもべたべたするはしっこで
陣取り合戦のように小指と小指を絡ませて
ふたり仲良く丸いすに腰掛けたかった
あなたはいつでも自販機の前で悩んでいた
ポークにしようかチキンにしようかとか
大盛りにしようかどうしようかとか
食べた後ふたりでどこへ行こうかとか
ふたりの人生をこれからどうしようかとか
いつまでも500円玉を握り締めて悩んでいた
ハタから見ればどんなにつまらなく思えることでも
あなたはいつでも真剣に悩んでいた
一生懸命何かの答えを導き出そうと悩んでいた
わたしはそんなあなたが大好きで
難しそうな横顔のあなたが大好きで
「たまごカレーの黄身よりも君がすき」
「カツカレーのカツにわたしの思いは勝つ」
つまらない冗談であなたを笑わせたかった
たまには眉間のシワを忘れさせたかった
カレーライスはわたしたちの思い出
カレーライスはわたしの生きがい
そんなカレーライスにわたしは溺れすぎていた
告りたかったわたしの愛はカレールーのとろみとなって
調子に乗って入れすぎた香辛料の辛味は
あなたにとって辛すぎたことなどお構いなしだった
「ねえマスター、おひやのお代わりお願いね」
なんで激カラなんて選んでしまったんだろう
ひとりで食べるカレーライスはいつもと違う味がする




自由詩 カレーショップであなたに愛を告りたかった Copyright 恋月 ぴの 2006-05-18 08:18:40
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