明星
嘉野千尋

  朝焼けがまだ
  始まらないので
  本当は昨日
  あなたに届くはずだった
  手紙のことを思った


  夜明け色の
  手紙を贈って欲しい
  君と一緒に
  指差して、星を探した
  あの日の朝の
  空のような


  思い出にするものだけを選んで
  別れの朝に抱きしめる
  剛い心でいようと
  願ったはずなのに
  ただ頑なでいただけなのか
  ぽきりと折れた、わたしの心


  夜明けの空に
  まだそっと
  残されたままの星を
  希望のように信じていたあの頃
  あなたの眼差しを追うたびに
  いつも遠くを見つめては
  不安になってあなたを振り返っていた


  光に満たされ
  やがて、姿を消す
  幾つもの星を
  忘れることなく覚えている
  その眼差しで
  朝と夜とを繰り返す 
  あなたに見えていた日々は
  特別美しかったのか


  あなたも昔
  あの白い星たちのことを
  希望のように、思っていた?
  今日はきっと雨
  夜明けの星は見えないまま



自由詩 明星 Copyright 嘉野千尋 2006-05-07 00:32:58
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