そのときあなたは夕暮れの街
嘉野千尋

  黄昏が近づいて
  風向きがふっとかわるとき
  隣り合って座るわたしたちの間には
  暖かな風のように沈黙が訪れる


  丘から見下ろす街並みは
  最後の夕日に照らされて
  あなたの横顔と同じ色に光り
  過ぎた日々を、わたしに思い出させる
  
  
  あのひとの傍にいるとき
  わたしはいつも苦しかった
  沈黙という、あのひとのリズムに
  合わせられないわたしがいて
  その苦しさに耐えられずに
  言葉を探しては、俯いて


 「風が変わったね」
  あなたが独り言のように言うので
  わたしもただ黙ってあなたの傍にいた
  頷く代わりに、少しあなたの方へ肩を寄せて


  言葉を失ったわたしたちが寄り添うとき
  あなたはまるで夕暮れの街のよう
  わたしのすべての、懐かしい心
  遠い日の、憧れに似た
  夕暮れの街



自由詩 そのときあなたは夕暮れの街 Copyright 嘉野千尋 2006-05-04 19:00:29
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