通過駅
霜天

いつか、と
少し頭を抱えるくらいで旅立てる昔話
私たちは傘でした、と言えば今でも信じないでしょう
折りたたまれた言葉の上で
降りかかる、(時々には)人や人から零れた
何か
を、払いのけながら、私たちは傘でしたから

(時々には、忘れられて)

あの頃も
通過する全てが
通過される全てを、置き去りにするわけじゃなく
支えるように引き摺られて
繋がっていく答え、のようなものを
今の私は知っているでしょうから


改札を通り抜けて
静かな足で
水際、すれすれを揺らさないようにして
到着する二両目に私たちは吸い込まれて

朝のホームは海の底のように

いつも、煙草を吸いながら
遠い線路の先を見つめる人がいる
あの煙も朝には光に溶けて
オレンジ色になることを教えてもらった

冷たいほどやさしい空気だった

通過する私たちから
通過される人たちを見る
集まっては昇っていく煙は
白だけじゃないことを
流れていく窓にはいくらでも
境目に
曖昧に引かれた線なんて
飛び越えるものでもないだろう


通過する、される、目と、目


思い出そうとしたことも
忘れてしまった物事は
今もどこか、電車の手摺りに
揺られている、かもしれなくて
私、たちは
降りかかる、人や人から零れた
何か
を、振り払うために
ゆっくりと、傘
でしたから


自由詩 通過駅 Copyright 霜天 2006-05-04 01:48:49
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