迎春
nm6

春、という5月の
光って市ヶ谷の駅の光って階段の小さな窓の
(その駅は、黄色い線の入った電車が水のほとりを走るところの)
ちいさい音楽を
グレーをつつみ隠す太陽色の平行四辺形が4つに
手のひらを握った大きさくらいで
世界にあたたかさという黄味がかかっていて
久しぶりにぼくらの真ん中のほうでつぶれそうな
ちいさい音楽を
「心を揺さぶる」なんてことばが足りていないか
写真なあまりとたんに見慣れてしまう
(その駅は、ありふれて電車が水のほとりで消えてしまうところの)
手のひらを握った大きさくらいで
世界にあたたかさという黄味がかかっていて
その上を滑走する二十数年間ぶりの自覚と
欲望の先にある、なんて本当に本当かなと
よく覗けばぼくらの日常になんてことばが足りていないか
嘘を蹴散らして気づいても春、という5月の
何もないぼくらのようなちいさい音楽を
悠々とした三時半の午後がこぼれたまま
こぼれたまま、歩いたり滑ったりしている

(その駅は、黄色い線の入った電車があまりにありふれていて、細かな線の入ったぼくらがあまりにありふれていなくて、ただ消えてしまうというだけで心したところの、水のほとりだというだけで涙するところの)


自由詩 迎春 Copyright nm6 2006-05-03 17:09:40
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