ゆくえしれず
こしごえ

ひとつ道を歩いている。
ひとつ道で立ち止まる。
ひとつ道で振り返る。
やはり、ひとつ道を歩くことにする。

なくしものはない。
はじめからもっていなければ
なくそうはずもない。


「もし、そろそろ行きませんか。」
「待って、もう少しで獲れそう。」
「いくつ駄目にして…。」
「だって破けるんだもん…。」
金魚も迷惑ではなかろうか。あんなに掻き回されては。
「おまけでやるよ……。」
的屋のおじさんが、3匹おまけしてくれた。
ビニール袋をとおして、屈折した金魚の像が目に飛び込んできた。
「ありがとうおじさん。3匹も!嬉しいーっ。赤と黒と白だよ。」
「……よかったですね。」
弱っているのをくれるなんて、的屋のおじさん。
「罪な人ですね。」
「えっ、何か言った。」
「いえ、こちらのことです。」


なくしものはない。
はじめからもっていなければ
なくそうはずもない。







個人サイト「As H System」
詩集「遺伝子」掲載



散文(批評随筆小説等) ゆくえしれず Copyright こしごえ 2006-04-26 13:48:31
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