すべての魂は夜、癒される
いとう

午前5時
始発間近の空気はいつも冷たくて
そのくせとても透き通っていて
「こんな街でもきれいに見えるね」と
僕たちは手を繋いで歩いている
空もそろそろ明るくなりそうで
誰かが吐いた道端の吐瀉物さえ輝いて
繋がれた手を
少しだけ強く
握ってみたりして

世界は時々こんなふうに
とても美しい姿を見せてくれるけれど
僕たちは上手く溶け込めずに
そう たとえば
せめて通行人の役でも立派に
果たすことができるなら
少しは救われるのかもしれない

夜に君が流した涙は
日が昇る前に乾いてしまった
今はもう
その痕跡すらわからないけれど
君は確かに昨日
僕の前で泣いていた
「もう、疲れた」と言いながら
魂ごと
僕にさしだして

原罪の彼方で僕たちは救いを求めて
赦されない悲しみを持て余しながら
神様せめて
救われない魂に癒しをください
抱き合って
体だけでも満ち足りた
一夜限りのわずかな眠りさえも
神様
あなたの前では
罪に問われるのでしょうか

改札の前で僕たちは手を離す
君が寂しそうに
「ありがとう」と微笑むから
僕はかけるべき言葉をみつけられない
空気は相変わらず澄んでいて
明け始めた空には雲ひとつなく
僕たちは世界に馴染めないまま
美しい朝に取り残され
いつもの生活がそれぞれに訪れるのを
離された手と手の距離で理解している
救われない魂が
赦されない悲しみのなか

癒し合ったことを
感じ続けながら
胸に秘めながら
立ち尽くしている



未詩・独白 すべての魂は夜、癒される Copyright いとう 2006-04-25 19:16:45縦
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