ジャングルジム
あおば

                       

子供がなにかを書いていると
先生がノートを取り上げて
大きな声で読み上げるので
水たまりの中には
どんな優しさも隠れられないよ

放課後の校庭に穴を掘り
校舎を埋める練習をしていたら
用務員のおじさんに怒られたから
火事で燃えてしまった物置小屋に
慌てて逃げ込んだ

ジャングルジムの組立が始まる
銀色のペンキを塗り
立入禁止の紙を貼って
夕方には誰もいなくなったから
手頃な石を投げつけたら
キンコンカンと鳴り響き
銀色の丸いものが向こう側に
すっ飛んでいって転がった

薄暗い校庭に銀の卵を残し
通用門をすり抜けて帰宅する
家では父と母が口喧嘩をしている
手頃な茶碗を父の傍に運んでいくと
それを合図に母は父を罵倒する
茶碗が飛ぶのは気分がいいから
それを見ながら宿題を片づけた

夜中になって月が躓いて穴に落ちたので
スコップで殴りつけ泥を被せて生き埋めにする
朝起きるためには素直な心が必要なので
四角い豆腐を買いにやらされる
味噌汁の中に白くて四角なものが
のたうち回っているのを期待したが
母がお玉でかき混ぜたので
ぐたぐたになって輪郭を失い
ふだんの混沌に帰る

ジャングルジムの中に住んでいる
輪郭は直線で形成され
柔らかい心を失い頑なになり
線形な思想を身につけて
水平に飛んで行こうとしたが
そのまま墜落し
地面にピタリと叩き付けられ
内臓破裂してのたうち回ったあげく
朝の来ないうちに息絶えた

見ていたものは丸い月の影だけで
朝日が射した頃には無になった
ジャングルジムに住む君の足の裏を
下から棒で突っつくのが僕の役目だ
落っこちる前に追い出すのは名人で
月の影となり眺めているのは今の僕

猫といっしょに
真夜中のジャングルジムに住む



2001/07/20(Fri)



自由詩 ジャングルジム Copyright あおば 2006-04-22 03:09:14
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