関さん
たもつ



まだ小学校に入る前だと思う
うちによく関さんが来た

今度の日曜日、関さんが来るそうだ
父が言うと
あら、じゃあ美味しいもの用意しなくちゃ
それが母の決り文句だった

僕は関さんが何処の誰だか知らなかった
ただ、日曜日の夕方に
ふらっとやって来ては
ご馳走を食べて
お酒を飲んで
両親と何か話をして
ふらっと帰って行くのだ

それがいつの日からか
ぷっつりと関さんはうちに来なくなった
ねえ、関さん今度いつ来るの?
一度、夕食の支度をしている母に聞いたことがある
うん、そのうちね
そう言うと母は目も合わさずに大根を切りつづけた

いまだに僕は関さんが何処の誰だか知らない
「関さん」ではなくて
「籍さん」かも「席さん」かも「石さん」かもしれない
本名かあだ名か
姓か名かもわからない

時々実家に帰るけれど
一度も関さんのことが話題になったことは無い
もちろん僕も
聞きはしない



自由詩 関さん Copyright たもつ 2006-04-16 19:31:28縦
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