不透明な春
A道化





ぽっ、と生き物の匂い
振り向いたけれど
ここはもう教室ではなく
ただ頬に、そして体に、雨でした
生き物ではなく
春で融けただけの


ああ
かつて
純だった
まばゆく、そして
確かに純だった
教室の水槽のメダカの
危うげに発光する尊い腹部
触れようとする指をつるり逃れて
指をずきずきさせた
生き物の



振り向けば
雨でした
ただ頬に、そして体に
春なのに、生き物ではなく
ああ、生き物ではなく
春で融けただけの



2006.4.13.


自由詩 不透明な春 Copyright A道化 2006-04-15 02:21:32
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