夜の底
チアーヌ

彼女がいつからそこにいるのか
知っているものは誰もいない
このビルを20年前から掃除している
おじいさんがそう言っていた

古いビル
彼女は窓辺に座り
タイプしている

カタ・・・カタ・・・カタ・・・
お仕事をしている

つまらない毎日


おじいさんがビルの掃除をしていると
彼女は時折にっこり会釈をして通り過ぎていく

彼女は年を取らない
透き通るような肌に黒目がちの瞳
手に持っている文庫本はいつも読みかけ
グレーのスカート
黒のカーディガン
白のブラウスはいつも洗いたて
ほんのり石鹸の匂い
長い髪の毛は烏の濡れ羽色で
僕は

彼女に手を触れたい

お掃除のおじいさんは
静かに首を横に振り
モップの柄を天へ振り上げる

ときどき僕は屋上へ行く
東京の街はどこまでいってもビル
脳の許容量の範囲をいつも超えている
だからいつも僕は

深夜のビルの中
彼女はいつも

たぶん

僕を待ってる


自由詩 夜の底 Copyright チアーヌ 2006-04-14 12:34:32
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