花笑み
落合朱美


花曇りの空に舞う胡蝶の
その透きとおった翅を 
欲しいと思う 

やわらかく笑う 
ということを覚えたのは 
いつの頃だったろう 

新しいピンヒールが
足に馴染まなくて 
アスファルトの階段を
降りるたびに脚が震える 

支えになるものが何もないことに 
気づかないふりをして 
凛としていようと思う 

やわらかく笑う
ということを教えてくれたのは 
年上の女友達だった 

「思うがままに在ればいいのよ」 
と、ビオラの音色のような声で
穏やかに笑ったその人は 
ある日ぷつりと弦が切れて 
それからの彼女を私は知らない 

戯れつかれた胡蝶の漏らす 
瞬きほどの吐息にさえも
胸がはりさけそうに痛むのに
まだ笑おうとしている

華やかに
艶やかに
まだ笑おうとしている






自由詩 花笑み Copyright 落合朱美 2006-04-12 21:17:18縦
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