醜い四月に
窪ワタル

飛び上がった身体は
地面から順に世界を捨てていったのだ
アキレス腱からハムストロングにかけては
やはり加速が強いが尻では一端躊躇する
背中はすべてを覚悟していただろう
椎間板の辺りか胎盤のまでは分らないが
子宮だけは傷つけたくはなかったはず

セックスをするのを止めてから
乾いてしまった君を
繋ぎ止めることが出来なかったのは
僕が言葉を知らないせいだとおもっていたけど
どうやら違う 

美しくないものは存在する価値がないの

というけれど 世界は有機体なので
そんなに過不足なく成り立っていないよ
と 今ならもう少し優しく云える

墓標はてらてらと光り過ぎていて
人差し指に似ていないんだね
四月だからかも知れないけれど
後ろ指は指されないよ
よかったね

君は十六年と百六十三日の内
どれくらいちゃんと眠ったんだろう
もう起きたりしないでいいんだよ

手の甲にまだ君のあとが残っている
赤黒くて細くなった君はひりひりとして
ピカソとシャガールと朔太郎ばかり
吸い込んだ身体はもう
世界を捨ててしまった
美しいものにはなれないと
君は知ってた
君が知らなかったのは
十六年と百六十二日
君が描き続けた絵の様に
デッサンには時間が必要だったこと

世界は色を選べない
美しい四月はもう来ない
宙吊りになって揺れながら醜く
空だけは嘘のように美しいので




自由詩 醜い四月に Copyright 窪ワタル 2006-04-12 01:33:53縦
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