終着、そこからの
望月 ゆき

ターミナルに出ると
うす青い空が広がっている
通りは車で渋滞していて
そのまんなかでは 赤信号が
意味をさがしながら
点滅する
帰らなければ、と漠然とおもっていた
帰ろうとするその方角を見失って
わたしは
いつしか前のめりに
その場に溶け出してしまう



たしかに、あの日
わたしは列車に乗っていた
遠くの水平線には 巡視船が
陽炎のように浮かんでいたし
三つ手前の駅を通り過ぎるとき
開け放った窓からは
焼きたてのパンのにおいが
入りこんできた
わたしの駅をおりるといつも
磯くさい風が吹いてきて
それはとてもしあわせな瞬間だった
その瞬間が、これからもずっとつづいていくのだと
あの日のわたしが
どうして思えなかったのか
今になってもこたえが見つからない



シャッター音がして
景色が切り替わる
信号が青にかわっても
相変わらず 車は足踏みをしていて
その靴音だけが
わずかな湿気をふくんで
空からすこし低いところで
停滞している
わたしの質感だけが、徐々に
うす青い景色に吸収されて
帰ろうとしていた場所も、もう
記憶の外側へ



ターミナルは、今日も
磯くさいにおいにつつまれている
さびついたレールが音をたてると 
ゆっくりと
わたしを乗せない列車が
ホームに入ってくる


自由詩 終着、そこからの Copyright 望月 ゆき 2006-04-11 11:03:02縦
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