流行性感冒
窪ワタル

流行性感冒になったまま
廃棄物処分場の見える小窓の角の
名前も知らない虫の屍骸を睨む
新しい靴はまだ買いに行けそうにもなく
何がしか捕食しなければならないが
手足はとっくに死んでいる

ラジオからは流行らしい歌が流れていて
負けるなだのガンバレだのと捲くし立てるが
昨日も首を括った人の事がニュースにもならず
新聞の死亡欄には死因の伏せられた死体が並び
処方箋薬がインチキなので
ついつい忘れっぽくなる

昨日死んでしまった人のうち
空腹だった人はきっと一人もいないだろう
空はいつも空腹で欲張りで寂しい
友達たちがいるよ と囁いて
今日も誰か連れて行くんだ
空には星座が多過ぎるのに
みんな無垢で美しいので
星に願ったりする

僕はズルイので星は見上げないで
窓の角の屍骸の名前を考えて
死亡欄に並べるのだ

流行性感冒の季節は続いていて
流行歌は何も教えてくれない
星座の名前を一つ忘れよう
明日は靴を行く
星の綺麗な夜を歩いても
忘れないでいられる
流行歌が聴こえない国に行ける靴を



自由詩 流行性感冒 Copyright 窪ワタル 2006-04-05 19:36:47
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