始発列車
服部 剛

夜明け前の道を 
自らの高鳴る鼓動を胸に秘め
歩いていく 

川に架けられた橋をわたり 
駅の改札を抜けて 
無人の列車に乗り込む 

腰掛けると 
発車を告げるベルがホームに響く 

「出発進行」 

車掌の号令と共に 
列車はゆっくりと走り始める 
もう昨日へと引き下がることは出来ない 

車窓に映る朝焼けの空 
新たなる日々の幕開けを告げて昇る朝陽に 
真っ直ぐな瞳を向ける 

列車は加速していく 
野を越え 山を越え 
桜並木の中を走り抜け 
薄紅色の花びらを無数に散らし 
桜吹雪を巻き起こしながら 
全ての束縛を解き放つように 
筋書きのない明日へと走っていく 

朝焼けの空から 透けた(誰か)が 
旅を始めた車窓の中の私を見ている 

これから何処へ連れて行かれるのか 

どんな私が創られていくのか 

卵から孵り
深海を泳ぎ始めた魚のように 
親から巣立ち 
空へと必死で羽ばたく鳥のように
弱さを振り払いながら越えてゆく 
日々の壁の向こう側に 
一体何が待っているのか 

列車は朝の光を受けながら 
時の線路を走り抜けていく 
旅人を乗せた行き先の知らない列車を見送り
遠のいてゆく桜並木を背後に残して 

僕の想いを運ぶ
何億マイルの果てしない旅は 
逃げる為ではなく 
立ち向かう速さで 
新たなる日々へ、疾走してゆく 








未詩・独白 始発列車 Copyright 服部 剛 2006-04-04 22:50:23
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