一行物語
ヤギ

いつか贈られたCDを川へ投げたら、15回くらい水を切った。


医者にタバコとトコトコを止められている。


圧壊する潜水艦の窓に、父の船が見える。


優しくなりたいと呟きながらどんどん小さくなったひとをたくさんの哺乳類が一口ずつなめた。


ありがとうとごめんなさい以外の言葉を探している。


故障したセスナ機から飛び降りてうまい具合に木にひっかかったのだけど、ズボンとパンツだけどこかへ行ってしまった。


美人のネクタイ売りに会うために、毎食よくこぼしながら食べている。


ぴかぴかの新車、あこがれの新車、だけどクラクションが人の声。


一度だけ見上げた空には虹がかかっていた。


毎晩ショーウインドーに葉っぱを貼っていくタヌキに名前をつけた。


封筒に小石と飴玉をいれたら、もうなにも怖くない。


ハンコを押すたびに、「イタイ、イタイ」って聞こえる気がするんだけど、そんなことはお構いなしにすっごい勢いでハンコ押していたので、ニヤニヤしてたんだと思います。


にわか雨に傘を買って広げたら、へたくそなてるてる坊主がひとつぶら下がっていた。


野生の象は一日の約17%の時間、宇宙の広さについて考える。


風のつよい原っぱで思いだすのはギターのことだけ。


ホッチキスを空中で使ったら、ギャアと悲鳴がきこえた。


お母さんに噛まれてしまう夢を見たよ、と子ライオンは笑い、そう、と母ライオンは新しい恋に気もそぞろでいる。


逃げ水と追い水にはさまれて、立ち止まったらきっと溺れる、いや溺れるわけない。


人類最古の言葉は「オマエかよ」であることが、アフリカの洞窟壁画から明らかになった。


蝶はサナギの間に両親の一生を夢で知る。


三代続いた銭湯の最後の日、男湯と女湯の仕切りは、やっぱり壊されていなかった。


20年ぶりに冷凍睡眠からめざめた恋人の眼をみて、僕は粘土の涙を流した。


ブランコでうつむいている少年の帽子には、少し止まることにしている。


皆既日食を見つめる人々の目に写っていたものを、だれも見なかった。


おやすみなさい、その他にもう少し何か話そうと考えながら、今日も眠る。



自由詩 一行物語 Copyright ヤギ 2006-04-04 02:22:30
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