さよならからはじまる
佐々宝砂

じきに三月尽であるからして
桜満開
梅は散った

夜のあいだ働いて
朝がきたら酒を飲む
なまぬるい部屋で
カーテンを閉ざして

なにもかも逆さまで

だってほら
無言に近い状態で酒飲み倒して
けっこう私は酒つよいから
そっちが先にわけわかんなくなって
私はわけわかんないふりして
おたがいのこと知る前にやることやっちゃって

そんなこんなで
キスしたのが先々週で
音楽の趣味が一致してるとわかったのが先週で
名前教えてもらったのが昨日だ
いまだに苗字も携帯も知らない
そんなのありか
あるわけなのです
当然です

そういうわけなので
先にさよならを言っとく
三月尽はさよならの季節
さよならが多すぎるから
ひとつくらい増えても害はないよ

なにもかも逆さまなんだから
いまに桜がつぼみになって
梅がつぼみになって
それから氷がはって
冬がきて
そんなこともあるかもしれない

なにもかも逆さまなんだから
さよならからはじめよう


自由詩 さよならからはじまる Copyright 佐々宝砂 2006-03-28 01:06:19
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