安全剃刀
佐々宝砂

寝ても覚めても
と言ったら嘘になるので
覚めているときに話は限定されるが
覚めているときは
いつも
同じことばかり考えている

眠る私はきわめて自由で
木製の魚にまたがって
月まで飛んでみたりもする
誰だかわからない人と手に手をとって
うすむらさきの夜空を滑空したりもする
そこにあのひとは出てこない
出てきたことはない

逢いたいひとは夢にすら出てこない
見たい風景は記憶のなかにすらない

大切なことは
大切なことだけは
話せない

甘すぎるカクテルはどうしても飲めない
鼻をつまんで喉に流し込んでも絶対逆流する
だから
特別に苦いライム皮すりおろし入りジンライムちょうだい

今度逢ったら言うことにきめて

私は夜のベッドで飛翔する
ひとり
自由に
あのひとを遠く地上に残して




自由詩 安全剃刀 Copyright 佐々宝砂 2006-03-28 00:45:46
notebook Home 戻る  過去 未来
この文書は以下の文書グループに登録されています。
四文字熟語