召喚
吉岡孝次

古い雨が降る
小糠みたいな雨が降る
"The rain is raining." と唄ったのはイギリスの詩人だが
赤い髪をした僕は「ひゃ 〜〜 」と歌う大馬鹿野郎さ
おじいさん
おじいさん いつまで
待っているのですか 肉が付くのを
審判はまだですよ
そのうち誰もいなくなりますよ
生意気な一番星が線の下でじれていたって幻想(ゆめ)は
かないっこない 夜は永遠に来ないといっていいんです
紫の傘は一箇所 破れていますね 138個目の
雨粒が「裸眼を直撃」 ── あなたゆずりの凶眼を無残に
貫き
はじけます 石の上でぱちんと
さ さ 春の汁をあまさず飲んでください
ウェールズにも桜は咲きます
天才園芸家バーバンクの勝利です
先ほどから やさしい音色が流れてきてはいませんか
セメントを練るような 甘い心音
湿った生木は案外燃えやすいそうですね
ついつい思い出してしまいました
だって臭い
籾殻を焚いたような匂いがする あっ
ため口をきいてしまいました
お赦し下さい お赦し下さい The rain
is raining
とめどもなく暗い花壇を
しめやかに
古びた雨は塗り込めていきます


誓ってもいい
明日はきっと来ません


自由詩 召喚 Copyright 吉岡孝次 2006-03-23 21:53:39
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