クラウチング -f.version-
umineko

お昼。ランチタイムでごった返すコンビニを出て
二車線の道路。向こうからきた白い車は、低く構えて
まるで動物か何かのようだった。獲物を狙う。

クラウチング・スタート。

不意に。夏の情景がよみがえる。
私は短距離の選手だった。

ゼッケン。
くつひも。
ストレッチング。
いくつかの、おまじない。

あの。不思議な高揚感と、これでもう、終わりだなっていう
安堵の気持ちが。どこかにあった。

人生には終わりがない。それだけが事実で。
飛び込むべきゴールもよくわからない。
演奏会とか入試とか。それは、苦しいけれど簡単だった。

白い車を真似て、低く構える。
中途半端な前傾。灰色のアスファルト。
自分で鳴らす号砲。
自分で決めたゴール。

走れ。走れ。走れ。

愛してるって。誰か言って。
私に足りないものが。そこにある。
 
 
 
 


自由詩 クラウチング -f.version- Copyright umineko 2006-03-18 11:01:29
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