同じ空の下で
いとう

長かった戦争も終わり
とばっちりをくった君の街でも
ようやくガス管の再整備が終わったらしいと
遠くの街のテレビから流れる異国の言葉を耳にして
何故涙を流しているのか
自分でもよくわからない

4ヵ国語を公用語と定めている
とある永世中立国では
新築住宅に核シェルター設置が義務づけられていて
各家庭には必ずライフルがあり
徴兵義務を終えた男たちは有事になると
そのライフルで家庭を守るという。
僕は何故ここにいるのだろう
何を守るためにここに来て
何を救うために人を殺して
そんなこともわからないまま
笑顔で涙を隠しながら
君の街へ帰ろうとしている

僕たちは何かを守るために
何かをなくして何かをごまかして何かを忘れて
その結果が今
こんな涙となって
何もかもわからないまま何かが終わろうとしていて
でもそれは僕たちのせいなんだと
他の誰のせいでもなく
僕たちが間違えたせいなんだと
そうやって僕たち自身をごまかして安心させながら
間違っていたと言うのは簡単だけど
君の街へ帰っても
君がいてくれる保障はどこにもないけど
やり直すことができるなら
僕を守るために
君を守るために
自分自身の力で
間違った方向ではない強さと
間違った方向ではない優しさを手に入れて
笑いながらではなく
手を振りながら帰って行ける場所を見つけたいなんて
そんな絵空事を夢みながら
たくさんの人を傷つけて殺しても
それでもまだ笑顔が作れるこの僕は
それでもまだ
君の街へ帰ろうとしている
同じ空のある君の街へ帰りたがっている
同じ空を見つめているかもしれない君に会いたがっている
同じ空の下でまだ生きているかもしれない君に会おうとしている
たくさんの涙を隠しながら
たくさんの言葉を失いながら
たくさんの死体を踏みつけながら
この街を離れて
いろいろなことをまた
忘れようとしている





自由詩 同じ空の下で Copyright いとう 2006-03-17 18:40:57
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