月を抱く
千月 話子

朝焼けに燃え尽くされて 空  
「熱を帯びたから、私行くわ。」
そう言うと 彼女の全身から
冷たい汗が吹き出したのだった。


憶えているのは 丸い尻
しっとりと 揉んだ
憶えているのは 柔らかい腹
臍で 感じた


顔を思い出そうか 青く光る
顔を思い出そうか 青白く光る


そういえば 夢で見た
昨日の月は美しかった
寝床の位置を替えて ずっと見ていた
手を伸ばし 妄想の感触
輪郭を中指で そぅとなぞった
ああ、、夢現の狭間で
抱いていたのは誰だったのか


濡れもせず 窪んだ跡もないシーツに
手の平を置き 指でなぞる
今夜もまた 幻の女
月子を 想う


 朝焼けに燃え尽くされて 空
 昼に睨まれ薄ぼんやりと 月の亡霊
 内包された水の溢れて 温度の違う
 寒晴天 丸く凍えて


凍えては抱き 凍えては抱く日々に
出会った月子は七人で
心根の違うお前達の
顔はやはり 光り消えて


熱く揺れて 上から見下ろす
上弦の三日月のような 心強い月子

あなただけと 切なく触れる
上弦の半月のような しとやかな月子

何度も何度もと 波を欲しがる
上弦の四分の三月のような 貞淑がそそる月子

世界中の母の微笑を 世界中に翳す
満月のような おおらかな月子

暖かい腕が 温かい家庭のように受け止める
下弦の四分の三月のような 静かな月子

その顔にルビーを持って 口付ける
下弦の三日月のような 妖艶な月子


ところで 一番好きな月子というと
下弦の半月のように 私だけを
ただ 私だけを見つめて
腹と腹 胸と胸をくっ付けて
ときとき と心を交わし
二人して 大きな白い月になった
あの夜に あの 夜に



今夜 空に月は無く 新月
私達が羨ましいのか

連れ去った 消え去った
女の名前を 冷えた息で呼んでみた

   月子。



 






自由詩 月を抱く Copyright 千月 話子 2006-03-15 23:31:34縦
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