のびる詩人
佐野権太

ピチリ
動きが止まる
その瞬間をねらって
ピチリ

(爪は、どこまでのびるの?

問われた僕は
細心の注意を払うあまり、つい
どこまでもだよ
なんて
いい加減に答えてしまう

(空まで? ねぇ、空までのびる?

君がきらきら覗き込むから
僕はすっかり力が抜けてしまって
とろとろ笑ってしまうんだ

人を、自身を傷つけないようにと
こうして
等しく切り揃えてしまおうとする僕なんかより
散らばった乳白色の夢の欠片たちを
残念そうに見つめている君は
きっと
素敵な詩人さんになれると思うよ

深爪しないように
星がびっくりするかもね
なんて
取り繕ってみても

(宇宙まではのびないよ

幼い肩には
既にいくつかの現実を積もらせている
それを
払いのけてやることもできずに
僕はまた
ピチリ

知ってか知らずか
君は小さく
肩をすくませる


自由詩 のびる詩人 Copyright 佐野権太 2006-03-15 14:06:32縦
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