ひかり・ひかる・ひかり
前田ふむふむ



さらさら/さらさら/さらさら/さらさら
夜がひかりを浴びている。
さらさら/さらさら/さらさら/さらさら
暗闇の空から、月の青い液状の光線がおおう。模様ガラスをすかしてゆがんだ火焔の抽象。感情をうわずらせて、陰影の窓を粉々に映し出す。ひかりの海の雨をふらせている。海の中の波紋は、次々と渦を巻き上げて、おぼれだして、やわらいだ起伏を塗りこんで、静かな音をならしている。
さらさら/さらさら/さらさら/さらさら
ひかりが侵食して対流をつくる。
ひかり/ひかる/ひかり/ひかる
夏が見える

ひかり/ひかる/ひかり/ひかり
ひかり/ひかる/ひかり/ひかり
きらり/きらり 
きらきら/きらきら
/きらきら/きらきら
ひかり/ひかる/ひかり/ひかり
夏の海辺では、あたたかいエメラルドグリーンの海が広がり、眩いひかりの微粒子が、無限にふりそそぎ、静寂をつつみこんで、海のひだを震わせながら、ひかりの音素を、ひびかせている。やわらかい波動。晴れた海の形象は、すべてがひかりの輪郭だけで、さわやかに浸されている。僕は海では、ひかりの中のひかりになり、金色の音をならす。
きらきら/きらきら/きらきら/きらきら
きらり/きらり
きらきら/きらきら/きらきら/きらきら
ひかり/ひかり/ひかり/ひかり
ひかる/ひかる/ひかり
ひかる/ひかる/ひかり
眩いひかりの中のひかりになると、にえたぎる激情が、この青い朦朧とした遺伝子体を、熱い風となって通り過ぎる。
僕は、ながい波打ち際の浜辺を、

(波にむかって・・・・・)
かけ出して/かけ出して/かけ出して/かけ出して
(風に精一杯・・・・・・)
吹かれて/吹かれて/吹かれて/吹かれて
(泥だらけの足で波を・・・・・・)
蹴飛ばして/蹴飛ばして/蹴飛ばして/蹴飛ばして
(波にからだを・・・・・・)
さらけだして/さらけだして/さらけだして/さらけだして
(波にからだを・・・・・・)
押しつけて/押しつけて/押しつけて/押しつけて
(波に・・・・・・)
倒れこんで/倒れこんで/倒れこんで/倒れこんで
(大声をあげて・・・・・)
泣きながら/泣きながら/泣きながら/泣きながら
わめきながら/わめきながら/わめきながら/わめきながら

僕のはだかの今がひかりにとけている。

先端が揺れるひかりの乱舞。僕はひかりだ。
ひかりだ/ひかりだ/ひかりだ/ひかりだ
ひかり/ひかり/ひかり/ひかり
ひかり/ひかる/ひかり/ひかる
きらり/きらり
きらきら/きらきら/きらきら/きらきら
きらきら/きらきら/きらきら/きらきら

僕は、ひかり/ひかる/ひかり/ひかり 
浜辺の砂は硬質な塩の結晶体とこんざいして、ざらついた肌から、粉末状の乾いた分子を、さらしている。小さな穴をいくと、蟹が僕を、見つめる、あわてて、眼をそらして怯えるそばから、海水が流れるぬめった泥のようにさえぎり、蟹はおぼれる。海の波はゼラチン質の乳房のようで、深くするどい錐をさしこむと、全身を震わせて、受けとめる強い包容力を魅せつける。僕は全身のちからをこめて、やわらかい壁に身をまかせる。
僕は、ひかり/ひかる/ひかり/ひかり
きらり/きらり
きらきら/きらきら/きらきら/きらきら

ひかり/ひかる/ひかり 
ひかりを見ている
裏山を登るとひなびた寺院があり、湾曲した海辺が、見わたせる。そこの座りながめると、蝉のいっせいの鳴き声に、かき消されて、海の音は聴こえないが、海は沖まで、陽のひかりの反射板のようにきらきらと輝いている。
ひかり/ひかる/ひかり 
ひかりを見ている
ひかり/ひかり/ひかり/ひかり

ひかり/ひかり/ひかり/ひかり
ひかりが聴こえる
壁の木目が美しく泣いている。その音律は僕の眼の中にとける、卑屈ななみだを洗い流して、忽ち、僕の耳が耐えている、日常の屈折した閉塞に大きな穴を開ける。
ひかりの海は大きくなってあふれだして。
ひかり/ひかり/ひかり/ひかり
きらり/きらり
きらきら/きらきら/きらきら/きらきら

ひかり/ひかり/ひかり ひかりを見ている
ひかりは僕を翻弄する。
ひかりの光景がかわれば、ひかりは別の輝きをしめす、それは、ひかりが言葉となって、自立しているのだ。ひかりは、さわやかな明るさを、酸素のこころから搾り出して、壊れかけている安定しない僕の肉体の縁を、やさしく正しながら、微細な音階を散りばめて。ひかりが聴こえている。
聴こえる/聴こえる/聴こえる
ひかり/ひかり/ひかり/ひかり が聴こえる
聴こえる/聴こえる/聴こえる


音が ひかる/ひかる/ひかる/ひかる
きらり/きらり
きらきら/きらきら/きらきら/きらきら
世界が泣いたあの葬儀場の壁にもガラス越しに、ひかりは音をならしていた。音は死者の記憶をつつんだこころの領土に、むかって、激しく燃えだして。沸騰した悲しい音がひかりの外縁をとかして。憂悴するこころが露出して、音はひかりの肉体をひびかせて。音は気体に昇華して。
ひかり/ひかり/ひかり/ひかり
ひかり/ひかり/ひかり/ひかり
ひかり/ひかり/ひかり/ひかり

きらり/きらり
きらきら/きらきら/きらきら/きらきら        
ひかりのかたちは、湿らせた声になり、いつまでも、おだやかなひかりの音はたえまなく、聴こえている。
ひかりが聴こえる。
聴こえる/聴こえる/聴こえる  
ひかりが ひかり/ひかる/ひかり/ひかり
ひかり/ひかる/ひかり/ひかる/ひかり
きらきら/きらきら/ひかる/きらきら
きらきら/きらり/ひかり/ひかる
ひかり/ひかる/きらり
ひかり/きらり



未詩・独白 ひかり・ひかる・ひかり Copyright 前田ふむふむ 2006-03-08 17:52:38
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