三月
石川和広





歩く すきまだらけのからだに
すぐさま
圧倒的に
言葉の貝がらが入ってきて
それは ひとのにおいがして
たいそう悲しい春先の光となる

光だけだと寒いから
あなたは空とつながって
どうか言葉の貝がらを拾ってほしい
ぼくは寝ているから
ぼくは少しの間死ぬから
嵐の後の砂漠のように
見知らぬ女の子が泣いていた

いのち みたい
それに春先の光が当たって
あなたがまだ少しだけ足りない


呆けたおじいさんは熱い湯船につかった
シルバーシートには会社員男性が
つかれてねむっている


三月
もの憂げな戦い
もうなにもないかのような
あふれる季節だろう


自由詩 三月 Copyright 石川和広 2006-03-06 18:26:03縦
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