魔王と出逢った(出逢いの理由)
イズミナツキ

魔王が消えた
何も言わずに消えた
縁側には魔王がいない
まるでそこは別世界だった

家中探しても見当たらなかった
外も探した
それでも見つからなかった
魔王が消えてしまった

元々魔王は地獄の人だから
もしかしたら帰ったのかもしれない
それでも何も言わずに帰るなんて
ひどいよ

縁側に座って
私は溜息を落とした
縁側はすっかり
溜息の落とし場だった

「別れは悲しむことではない」

魔王の声が聞こえた
でも姿は見当たらない
驚く私の頭に
魔王は言葉を続けた

「出逢い、別れ、出逢うのが恋だ」

たまらなく
魔王の姿が見たかった
あの銀髪マントを
人間臭い魔王を

「私との出逢いと別れも、そのひとつだ」

わかっていた
出逢いがあれば別れがあることを
だけど
こんな別れ方はあんまりだ

「勇者、いつか私を倒しに来い」

魔王はそう言って
最後に呟くように言った

「また会おう」

そして魔王の声は聞こえなくなった
今まで隣にいた魔王が居ない縁側で
私はひとつの真実を見つけ
ひとつの溜息を落とした


自由詩 魔王と出逢った(出逢いの理由) Copyright イズミナツキ 2006-03-04 16:57:21
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