魔王と出逢った(マントの開店)
イズミナツキ

恋って苦いもんだ
良い意味でも
悪い意味でも
胸が痛む

思い切ってあの人に告白してみたものの
結果は言うまでもなく玉砕
当たって砕けろと言うけれど
それは他人事だと思ってるだけ

悲しみに暮れる
恋に敗れた人は誰もが思うかもしれない
もう恋なんてするもんか
そして涙を流すだけ

顔は夕日を浴びず
影で顔を真っ黒にしながら家に帰ると
銀髪マントの男が――
魔王が迎えてくれた

「おかえり」

魔王に心配かけたくなかったので
私は泣くのを止めて
精一杯の笑顔で家に入った
声が震えて「ただいま」が言えなかった

「今さっきマントが開店した」

魔王はわかっていた
私が泣きたいってことを
魔王はマントを広げ
優しい声で言ってくれた

私は魔王の胸を借りて
近所迷惑になりそうなくらい泣き喚いた
魔王はマントで私を覆い
優しく頭を撫でてくれた

「苦難を乗り越えてこそ強くなれる」

魔王は小さな声で言った
私には聞こえなかったけど
魔王は独り言のように
私に声をかけてくれていた

「よくやった、勇者。レベルアップだ」

いつか必ず
あの最強の敵に打ち勝ってやる
そして私は魔王と共に
次の旅に出た


自由詩 魔王と出逢った(マントの開店) Copyright イズミナツキ 2006-03-03 19:40:02
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