ワールドアパート
モリマサ公
世界は鍵のないドアのようなものだ
君は今ほほえみという名前の粉ミルクをお湯で溶かしている
名前をよびたかったがわからない
せめてメルアドを教えてほしいというと語尾上げで「はあ?」と一瞥される
ガラス越しにはだかのけやきがおおきくゆすれ
路肩でバイクのシートが勢いよくめくれあがり
駅ビルの入り口であまりにも無邪気な北の家族の旗がばたばたとはためいていて
心臓ではきれいなものときたないものがまじらないようにざあざあ音がしていて
南極大陸で短い夏が今にもおわろうとしている
存在する不在たたまれた新聞に泥がはねる
2001年9月
ブロードウェイでぼろきれが何度もひかれてそのうえをジェット機がよこぎり
野良犬のようなものがコニーアイランドのメリーゴーランドの影に曲がってみえなくなる
それぞれの国の言葉がノーティスにはりだされて
2003年12月
熱帯魚のようなものがあたたかなバンダアチェの海岸でゆれている
ひらかれた乳飲み子の瞳のいろにうつるものはとてもたいらでどちらかといえばまぶしいほうです
彼女は美しい
彼はとても賢い
ポケットの小銭を数える
可能と不可能の限界
選択されて有限と無限になる存在
ここにいる
地上でまっすぐに握られているたましいとそのなかの鼓動に誓う
それだけですでに選ばれているというリアルに誓う
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