鳥籠
前田ふむふむ


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あなたは白い直線を引いてある水面です。
わたしは、赤い曲線を水面に描き込みました。
其の時から、あなたは透明な鳥籠に閉じこもる
剥製になりました。
鳥籠からヴィオラの音色が聴こえました。
ヴィオラの音色は銀色の肖像画
妙に大人びて、悲しく歌います。

  鳥籠を開けてください
  
あなたは何もいいません。
わたしはヴィオラの音色を掻き集めて、
秘密の隠れ家の宝の箱にそっとしまいました。
ある日、野鳥研究家という男があらわれて
あなたをいれた鳥籠をどこかへ運んでいきました。
鳥籠がない暖かい現実が
わたしのこころに冷たく当たりました。
宝の箱にしまったヴィオラの音色は
わたしの青い写真フィルムに
哀しい残像として映りました。
    ?
夕焼けがきれいな空を眺めていたら
遠くに祝福の鐘が聞こえます
その大地が揺れる音は
わたしの心臓を突き刺して
鏡のなかの葬祭場に無造作に運びました
わたしの理性は黄泉の果実を食べて
こころは醜く腫れ上がりました
狂ったわたしは、秘密の隠れ家の宝の箱をあけて
ヴィオラの音色を齧り出しました
修羅のように。
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一羽の金色の鳥が飛んでいました
空を自由に旋回したあと
秘密の隠れ家の窓辺に止まりました
金色の鳥は泣いていました
天使の涙に修羅は地上に這い出して
光を享けると、われに返り
ヴィオラの音色を鳥の背に乗せました
金色の鳥はかなしみを乗せて
大空高く、どこまでも飛んでゆきました
振り返ることもなく。
わたしは思い出の船の羅針盤が壊れて
いつまでも、虚無の海を漂っています
嵐はもう二度と来ないというのに








未詩・独白 鳥籠 Copyright 前田ふむふむ 2006-03-01 00:14:39縦
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