魔王と出逢った(空の色と涙)
イズミナツキ

魔王が言った
神にできない事はない
神と対極にある私も
できない事はない

「恋愛は?」

私がそう訊くと
魔王のお茶に涙が落ちた
しまったと思って
私は魔王を慰めた

「空は青いな。私の心も青い」

確かに魔王の心もブルーなんだろう
でも空の青とは違うと思う
それでも魔王は思い込む
私は何も言わなかった

魔王から色んな事を聞いた
地獄は意外と楽しいとか
勝利の女神はアテにならないとか
神とは幼馴染だとか

「よく居酒屋に飲みに行くんだ」

魔王の呟きを聞いていると
空の色はオレンジ色に染まり
太陽はさよならを告げようとし
月がゆっくりと目を覚ました

「私の心もオレンジ色だ」

それは再び恋に燃えようとする意気込みだった
失恋を紛らわす言葉だったのかもしれないけど
私の憂鬱を吹き飛ばすには十分だった
私は立ち上がり

「ご飯食べよ。手伝って」

そう言って
魔王を台所へと連れて行った

「料理か。それなら私に任せろ」

そう言った魔王は
指を切ったり
玉葱の皮を向いたりで
台所では殆ど涙を流していた


自由詩 魔王と出逢った(空の色と涙) Copyright イズミナツキ 2006-02-27 19:48:47
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