余寒
落合朱美


傘を
返してほしい

名残りの雪は
綿のコートには冷たすぎて
ひとりで帰れる自信がないから

あの桜もようの紅い傘は
ほんとうはすこし空々しいから
好きではないのだけれど

淡いマニュキアの爪は蒼ざめて
肩の震えがとまらない

めくるめくような想い出だけを
なぜ貴方は残そうとする
眼差しの先には
もう次の愛を抱いているくせに

私を
返してほしい

さようなら、と
私は云おうとしているのだけれど
歯がかちかちと鳴るだけで
言葉にならないまま後ろを向いた




自由詩 余寒 Copyright 落合朱美 2006-02-25 23:42:25縦
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