光の滲む雨の夜道を
服部 剛
雨の降る仕事帰りの夜道
傘を差して歩く僕は
年の瀬に冷たい廊下でうつ伏せたまま
亡くなっていたお爺さんの家の前を通り過ぎる
玄関に残る
表札に刻まれたお爺さんの名前
つかまって下りて来た階段の手すり
「 また来週・・・! 」と
車のドアを閉めて走り出した窓越しに見える
門の前に立つお爺さんの姿だけが
小さくなってゆく
止まったままの時間の中から
今もこちらに手を上げている
帽子のつばの下に目を細めて
降り続く雨は
街灯がアスファルトに映す
ぼんやりとした光を滲ませる
( 僕はお爺さんに何ができただろう・・・
今も胸に残る秋の午後
無数の枯葉が芝生を覆う
庭のベンチに並んで黄昏の陽を浴びながら
お爺さんの若き日の恋と僕の不器用な恋を
懐かしそうに語り合ったひと時
( お爺さん、
( 人は、いつか消えるのですね。
( 今ここにある命を生きることの
( 言葉にならぬ尊さを
( 忘れてしまう僕は
( 繰り返す日々の暦をめくっては
( 一日を丸めた紙にして
( 背後に投げ捨ててばかりです。
今日は寒い、雨の夜
埋めることのできぬ胸の穴に
今夜もそっと夜風は吹き抜けてゆく
街灯を映してぼんやりと
滲んで光るアスファルトの上
寂しさと背中合わせの優しさを探して
傘の下に肩をすぼめて今夜も僕は歩く
心は濡れたまま
あの街灯の淡い光の下
傘を差して待つ
幻の女の方へ