二台の洗濯機における青春の一考察
たりぽん(大理 奔)

農家の母屋を改造した学生下宿が
家賃一万円の住処だった
わたしは床の間のある客間の六畳
一二畳の居間には親友が
離れの六畳には先輩が
隣の六畳と四畳半には後輩が
それぞれ巣くっていた

各部屋はベニヤで仕切られていて
玄関から中庭に入り縁側からガラス障子を開け
私は自分の部屋に入るという構造
便所は当然くみ取り、別棟で
それもあわせて、彼女を呼ぶことは
至難としかいいようがない

台所も共同、石の流し台
崩されていない古いかまどが
使われもしないのに威張っている
風呂は大家さんちではいる
時間割を先輩が作るのでそれに従うのだ
順番待ちの時は大家の美人の娘が
お茶なんかを出してくれるので
冬は寒いけど、風呂は大好きだったな

洗濯場も共同
中庭の井戸小屋に二槽式洗濯機が二台
どちらも近所の粗大ゴミの日に
みんなで回収してきた年代物

一台は薄緑色で洗濯槽は動くが脱水機が壊れていた
一台はアイボリーで脱水機は動くが洗濯槽が壊れていた

お互いができないことを知ってもいないのに
二台はひとつの役目を果たしていた
洗濯は庭石に腰掛けて
キンモクセイとセブンスターを吸いながら
時々、中庭の四角い空に月なんかがはまっていて
四畳半の後輩のマリオの音やら
十二畳の親友のかけるPowerStationの
リズムが聞こえたりした

そんな夏の日だった
祭りの音が遠くに聞こえていた日だった
アイボリーの、まわらない洗濯槽に
わたしは水をためた
めいっぱいためた
そして、すくってきた小さな金魚を
そこに放したんだよ

金魚は泳いでいた
自由だったな
そう、金魚のように

空の色は薄くって
わたしたちは自由だった
その言葉の意味も知らないくらいに




自由詩 二台の洗濯機における青春の一考察 Copyright たりぽん(大理 奔) 2006-02-23 22:23:55縦
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