青い風景
はな 


気の早い春一番は 潮鳴りのようなおとを立て
町の上空をゆくのでした
「僕ら、結婚するかな」
彼が昨夜言ったことばが、洗っていたおさらから急に飛び出してきて、ひっこめるのに苦労しました。わたしはまだ十九で、彼はとても純粋な目をしている人でした。わたしは彼がどんな結婚をしていたのかを知らないし、夫婦ってどんなものなのかを、知りませんでした。彼は何を考えているのだろう、と思いました。そしてすぐに、何も考えてはいないのだと気がつきました。何しろ、CDはベスト盤を買っておけばまちがいないと思っている人です。朝が来る度、わたしは彼のことばを思い出しました。



よこなぐりの朝が
さんさんと焼かれている
まっすぐのみちの とても遠くに
制服姿の
わたしがいた

うつむいた花々と
ますからのかわいてゆく おと
いつも
みずびたしの太陽に
照らされ



青い風景
どこまでもつづいてゆく 
あおい
ふうけい
目が
霞んでしまう 



ばんそうこうの匂いで
目覚めてゆくじゅんばんで
僕たちは生まれていって
かぜをひいたり
歌をうたったり
あしのさきを てのひらであたためたり している

ふと見ると
彼女は 美顔術にせいを出している
古ぼけたしゃしんみたいだったので
用もないのに声をかけると
煩そうに
振り向いた




どこまでもしぶとくて、あざやかで、平らかな道の上に彼が立っているので、私の世界もいつしかそうなっていました。
夕方の近所のスーパーで、おばさんたちに混じって戦利品を揚々と持ち帰ってくる彼の、感傷や、いらだちや、喜びは、そのままに降ってきて、目がくらみそうになるのです。それはわたしがいつか浴びていたあのかたちのないひかりよりも、おそらく、格段に、まぶしいのだと
思います



また
青い朝が 流れてくる
僕たちはどこへもいかない
あしたも
ななめにめぐってゆく
この星は
自販機や コンドームでできていて
とてもせつなくて
空にさわると
ふわふわ している




未詩・独白 青い風景 Copyright はな  2006-02-22 21:44:30縦
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