長い坂
アマル・シャタカ

人生を
長い坂に喩える人がいる

きっと僕もその長い坂にいるのだろう
どのくらいの地点かはわからないけど

どうして登るの?
と聞いてみたくて見渡した

登山家みたいな人が近くにいたが
答えそうなことがわかるので
見送った

若者が行くので聞いてみた
坂のてっぺんから世界を見れば
気持ちいいでしょう?
と彼は答えて そそくさと行った

中年の男性が煙草をふかしながらいたので
何をしているの?と聞いてみた
知らぬ間に家族の姿が見えなくなったので待っている
と彼は言って 4本目の煙草に火をつけた
煙草の吸殻は坂を転げていくように見えた

坂を下りていく女性を見かけた
血走った目の女性に
僕の掛ける言葉はなかった

修行者みたいな人が
大汗をかきながら 足の不自由な人を背負って
登っていたので聞いてみた
足を鍛えているのさと
彼はそっけなく言った
背中の人は
無理はしないでねと
修行者を気遣っていた

若いカップルを見かけた
喧嘩をしているようだった
お前の足が遅いとか
何よ あなたのリードが悪いとか
少しはアタシを背負ってみるとかないの?とか
お前なんか重くて背負えるかとか
もう一緒には登らないとか言っている
二人の横を犬が
怪訝な顔をして通り過ぎるので
僕も犬に従うことにした

座り込んで泣いている子供がいた
親にはぐれたのだろうと
慰めてみたが泣き止まず 途方に暮れる
いっしょに歩いていた犬が
子供の顔をぺろりと舐めた
子供が笑った
僕も苦笑い
親御さんが現れて
僕たちは別れた

転落しそうな女性を
男性が必死で手を伸ばし助けようとしていた
女性は言った
手を離して あなたも落ちてしまうからと
彼は何も答えなかった
僕は急いで駆けつけて男性のお手伝い
しかしここは坂が急で苦戦
相棒の犬くんが吼えると
聞きつけた周りの人が助けてくれる
女性は男性の胸の中
みんな
いいもの見たなあと笑顔で話した
僕もちょっぴり憧れた

老人が座り込んでいるのに会った
何をしているの?登らないの?と聞くと
もう年でな 足腰もたたんのよ
と優しく言う
でもまだ途中だよ
と僕が言うと
ここがワシの終点じゃさ
景色もよいし 風も心地よい
と上を向きながら微笑むので

相棒の犬くんといっしょに
老人の横に座って上を見上げた

空が綺麗だった


自由詩 長い坂 Copyright アマル・シャタカ 2006-02-18 15:22:03
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