上げた声
半知半能

何者かが
爪を立てて
音もなく乱暴に
青い森を切り裂いていく

静けさの魔性を駆逐して
さざめく命の連続性を絶とうと
想像の上に生きてきた魔獣が
眼を覚ましたのだ
それは自らが赤子のように儚いことを知り
同時に自分が世界のように不朽であることを知っている

朝が来る前にそれはあの峰の頂に立ち
翼がない事を一瞬悲しんで
存在の勢いを増す

誰か誰か(誰か誰か)と
もしも獣のそばにそっと立ち
耳を貸すものがあったなら
口の中で声になる前に噛み潰される叫びを
聞いたかも知れない


轟く
轟く
轟く

猛烈に加速して光を追い越そうと
地面を喰らいながら
獣が獣の四ツ足を爆発させ
走っている
足で地面を雷鼓し
血の流れるもの全てを誅殺せんと
地の果てを目指す

己の牙を己の爪で研ぎ
己の限界を己の怒号で突破


ふいに 失速

海岸の途切れた場所で
獣は自分の名前を知って

死ぬ前に 消えた
そうして今日も 朝が来た



自由詩 上げた声 Copyright 半知半能 2006-02-18 00:32:49
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