ツァオベライ
嘉村奈緒

「 ツァオベラ  あの  真っ白い世界 」





 わたしはその日も一斤のパンと砂糖水を摂った
 目の前で食卓の隅が何枚もめくれているのを見ながら
 なにかを話そうとすると、その度に景色がぬかるんだ
 あれは葬式よ
 長い列に父も母も並んでいる
 わたしは末尾で鳥になるから、だいじょう ぶ


  じょうずに 羽を動かして 食卓につけるのよ!




                 「 一斤のパン、砂糖水、チチチ・・・









    すごい早さで食卓は進む
    あの魚は肉がうまいあの魚は霞むのがうまいと子どもたちは真っ白い顔で話している
    わたしは、明くる日のパン、明くる日のパン、を、摂りながら真っ白い世界に年輪をかけていった
    輪、広大な輪、曇りのない水面になり、列の一部がつぎつぎともぐる
    白い子どもたちは「オーオーオー」って野太く鳴くの
    わたしは困らないよ
    わたしはしたたかだし、産毛立った腕は元気よく成長している
    魚がするりと昇るので、わたしはそれを捕まえればいい
    
    鱗は箸でよけるから、ねえ、

                 ツァオベラ!

                      あなたはまあるい瞳の中でしずかに汽笛を鳴らす
                       行列はいっせいに空を見るから、わたしの産毛は総立ちになる

                      「 ツイイと言って警戒するの

                      「「 獣に気をつけながら水浴びをするの
                      
                      「「「 いいえ、食卓をするの。






                チ−−−チ−−−チ−−−チ−−−
               ( オニヤンマ は ムニエル で )







    鳴いて、めくれて、日がな一日
    あれは長い葬式よ
    年輪の遠心力に振り回されて 献花がほうぼうに散っていく
    わたしと食卓はそれらの頭上を旋回する
    ツァオベラ
    葬式の列を行く顔を知らなくてもいいの けれども彼らは言葉を持たないから
    かすかな囀りをも逃してはいけない
    正しいあなたの汽笛が
    ツイイとしずかな線のように響く







                         
                  ・ ・ ・
                  ぼ く た ち は あ こ が れ て い た
                  や さ し い も の や
                  あ た た か い も の や                         
                  ま っ す ぐ な も の に

                  背 中 を で き る だ け 丸 め て
                  ま ぶ た で は じ い た
                  光 の
                  ざ わ ざ わ と し た 感 覚 の 中 で
                  聞 こ え る べ き 音 が
                  聞 こ え る よ う に              

             




    ツァオベラ


    彼らの先はもう見えないほどに小さい
    末尾で食事を終えた わたしの内部とわたしの食べ残した屑を追って
    獣がどんどんやってくる
    わたしたちはとても憧れていたよ
    長い長い行列を作って







    真っ白な世界よ
    日がな、一日、めくれ続けていた
    それから 聞こえるべき音が
    聞こえるように
    ツイイと
    鳴くの
    
    
    
       






  


自由詩 ツァオベライ Copyright 嘉村奈緒 2006-02-16 00:37:48
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