少女は感情移入する
千月 話子


  切り絵(題材)
   「少女」



ただ真っ白い紙でした 私たち

切り絵師は 無を有にする
柄に美しい細工を施した
銀色の先端鋭いハサミで
すんなりと手足の伸びた
可愛い少女を しゃくしゃくと
切り抜いていきました


中側の私は
カールした髪に星の髪留め
ふわ と広がるスカートに
水玉を ぽつりぽつり散らし
黒い台紙の上で
少女画集の扉絵のように
清楚な姿を 演じておりました


紙を尊ぶ切り絵師の手に
枠側の 少女
白い余白に生き生きと
太陽・雲 花蝶などを刃先で描き
黒い台紙の上
おとぎばなしの始まりを演じますよと
動き出す間際の指先を
綺麗に伸ばして 待っておりました


切り取られて
重なった手を振りほどき
一卵性双生児 私たち


白い私は 夜の国
黒いあなたは 光りの国で
気付く 混乱
そこから見やる
次に形作られるであろう
白い紙の 何も無い白い世界を
嬉しいのか 悲しいのか
もう わからない位
呆然と ただ呆然と
見つめておりました


そして、彼女たちは

客席から感情移入する少女
客席から光り射す少女


それを頂戴
私に頂戴
あなたを あなたを
あやふやな世界から滑り降ろし
温かな この手の平に受け取って
二十四色の世界へと・・・
囁く二人の声 重なって
彼女たち 知らず姉妹


額縁に飾られた 中側の少女
虹の国から見つめ合い
私たち 美しく笑う姉妹


額縁に飾られた 枠側の少女
虹彩の国から見つめ合い
私たち 歌い踊る姉妹


夜は もう怖くない







自由詩 少女は感情移入する Copyright 千月 話子 2006-02-13 23:56:15縦
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