及川なお
虹村 凌

教会の中の懺悔室で一人
夜を明かしたいと思っている
髭が茫々に伸びたオジイサン
右手には小銭を集めるカップ
左手には小さなダンボールに
「片足が無くて仕事にも付けずホームレスをしている」
「助けてくれ」
一日中声を張り上げた喉はガラガラで
それでも癒してくれる水は飲めない

リズミカルに椅子を叩き
カップを振って
16ビートを刻む
張り上げる声
ホームレス達の戦争
領土拡大か縮小か
「お前の心は何処にあるんだ?」
「頼むぜ兄弟、少しで良いんだ」
ハッパの匂いのする口臭
一本25セントの煙草で大喜び
でも腹いっぱいの飯なんてもう食えないんだろう

ビルゲイツがミケランジェロの本など買わずに
その金の十分の一でも寄付してみたら良いと思うんだ
その金で一体何人の子供達を救えるのか
俺達がコンビニで小銭を募金するよりは
遥かに多くの生命を救えるだろうに

及川なお及川なお及川なお及川なお及川なお
及川なお及川なお及川なお及川なお及川なお

及川なお

俺が煙草を止めたら
その280円で何人が救えるんだろうか
俺が煙草を止めてその分を募金したら
いつがビルゲイツももっともっと巨額の寄付をするだろうか
そしていつか募金箱を見る事がなくなるのだろうか

クリスチャン&ビザンティン式スープレックス
ジャパニーズオーシャンスープレックス
ジャーマンスープレックス
エクスプレス
クスじゃないクスじゃない
クスじゃない及川なお

マクドナルドやバーガーキングで
たったの50セントだけボられるような日も
ショウズスーパーマーケットで
10セントだけボられるような日も
いつか無くなるんだろうか
カフェーじゃない喫茶店の
クリームみたいに甘い
思わず笑ってしまうような
喫茶店のクリームみたいに
及川なお及川なお

そんな日が来ればいい
くる筈が無いことはわかってるけれど
そんな日が来ることを祈る詩を
こんな俺だけど
こんな俺が書いたっていいじゃないか
及川なおが書いたっていいじゃないか
多分そのあたりを認める事から始まる
ちょっとした平和な感覚


自由詩 及川なお Copyright 虹村 凌 2006-02-13 02:16:02縦
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