汗の匂い
とうどうせいら

陽炎ゆらめく金の砂子
彩雲は海風に吹き乱れ
てのひらに燃え立つストレリッチア
放った水際 横なぎにさらわれる

あの辺を転がってく
サクラ紙みたいな柔らかいの
さっき2人で食べた
カップラーメンのフタなんだ

誰も誰もいない島
息をするのは2人
あなたとあたし
並んで座る


もし あなたが死んだら
あたし あなたを食べちゃうと思う
もし あたしが死んだら
あなた あたしを食べちゃうと思う

もちろんあたしは
めいっぱい悲しいふりして
塩コショウすると思う

やっぱりあなたは
しっかり嘘泣きしつつ
コーヒーなんか沸かすと思う

けっこうけだものよね 人間ってさ


水浅葱の縁で
例のフタが止まった
3枚集めるとカメラがもらえるシール
つけたまま流された

残念だ とっとけばよかった
愛着のあるラーメンのシールだったのに
感動の別れ
思えばあたし達に食われたのも運命だったのね

さらば 最後の食糧


あなたの横顔に
深い陰がある
あたしのタンクトップは
砂色に染まってる

一生の最期が
好きな人のおなかの中
考えてみると
フシギな気持ち

地蔵耳のあなた
たらこだと言われたあたしの唇
寄せてささやく

 「おーい……好きだぞー……」


あなたはふっとおもてを上げる
ぼんやりとあたしを見る
変な黙り方
あなたの顔に書いてある


 ?こいつの腹ン中
  あったかいかな
  ……そうだといいな?



もし あたしが死んだら
あたし あなたに食われちゃう
もし あなたが死んだら
あなた あたしに食われちゃう

見つめあう
顔が近付く
あなたの髪から汗の匂い
いつもと同じ汗の匂い

こういうものを失うのかな



でも


 おーい……好きだぞー……
 ……大好きだったぞー……


夕波は海の面を滑り
砂山は既に風解

  

  波音が遠のいていく






自由詩 汗の匂い Copyright とうどうせいら 2006-02-11 22:58:15
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