やめない
石川和広



帰るから
もう帰るから
といいながら
帰らないでいる
ひとりの男
夕陽眺めて


空は大きい
空は小さい
どちらだろう
飛行機がきりとる空
ロッカーから見ている





彼は深く沈んでいるが
必ず空はやってきて
ひとみの奥を貫く

今日は
いい空だ
薄い雲が
ビルをだきしめている
小さな窓に切り取られるけれど
仕事をやめた男の眼には
薄暗い空が
体に染み込んでいくように感じる

けして
後悔がないわけではない
透き通った気持ちでもない
だから
こんな時は
空だけを残して

生きるのが疲れた
なのに続いていく

涙流れない
母はどこか
父はどこか

異常に大きい太陽
雪がかかる屋根


ああ
ああ


幻だった
僕は
仕事を辞めて
四年になる
それに
辞めたときの景色
あんなだったかな
でも不意に浮かんだ

今は精神科デイケア
に通っている
少し疲れる

帰り道
空をみる
あ、まだ青い
もうすぐ
暗くなる
ひとりぼっちの家へ
帰る
みんなにサヨナラ行って
僕は暗くなる空
一人で電気をつけて
上着を脱いで
米をたく
女が
帰ってくる間
少し
煙草を吸う


夜がなつかしくやってくる
きっといいにおいだ

だからデイケア
やめない




自由詩 やめない Copyright 石川和広 2006-02-10 19:18:20縦
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