死にぞこない
七尾きよし

何度か死にかけたことがある
一度目は歌舞伎町コマ劇横の歩道で
ジュースに何か混入されたようで
心臓がぼかんと爆発したかと思うと
身体の内部が気持ち悪くなって
吐き気はしないんだけども
鼓動がだんだん弱くなってくのがさみしくて
遠い暗闇の中で
さようなら
って小さな声が聞こえて
おいおいこんなとこで
死んでたまるかよと
叫んだけど声にならなくて
しゃがみこんで
トクントクンって心臓が
弱弱しく最後のリズムをならして
ぼくは意識を失った
でも死にませんでした

二度目は南インドの
またもや路上に横たわって
死にかけてました
獣医の卵だとかいう修行仲間が
ぼくの脈をはかりながら
今ボクは絶望的な気持ちだ
とかバカなことを言うのを聞きながら
とっくん とっくんと
だんだんしぼんでく心臓の音
とっくん とっくんと
底なしの深い深い穴の中へと
墜落しつつ
油っこいカレーが良くなかったのかな
と心臓発作の理由を考えてる途中で
ぼくは意識を失った
でも死にませんでした

いつ死んでもいいぜ
とかウソブイテるけども
人は急に死にそうになったりするもんだ
しかも
時も場所も指定できなくて
こんなとこで死んでたまるか
ってのが正直な気持ち

こんなとこで死んでたまるか
愛するお前がいないとこでは
死んでも死にきれないぜ


自由詩 死にぞこない Copyright 七尾きよし 2006-02-08 02:34:35
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