夜の情景
前田ふむふむ


直立する目覚める夜が、黒色の雨で高揚する。
行き場の無い雨の溜まり水を抱えて、
痛みに耐える打ちつけられた岩が、
侵食する季節の皮膚の性をむかえ入れる。――
慌ただしく夜の吐息が反転して、
無数の直線が疎らな点に変貌する。
時と共に、雨の形象が、崩れ去り、
崩れゆく時を呼吸する夜が、
燃えたぎる静寂の仄かな光の余韻を引きずり、
瑞々しい気配の抑揚を醸し出す。
眩暈をおこして墜落する雨が呼び込んだ、
微風の音は振り返らずに、
夜の塵に埋没して、
孤独な暗闇を逃走する一羽の梟が、
滑らかな時間を貪り食う。
食べ尽くされて白骨になった時間の欠落は、
薄い皮を蔽い、未知の匿名を泳いでいる。――
螺旋状に登る煙が、
慎ましい家庭の匂いを、
黒い空に伝えて、
家の窓辺の前の、大きな水溜りに、
畳んである薄い温もりの痕跡を映す。
それは鬱積する血液の履歴、
夜の爪で強く削り取れば、
流れる淀んだ冤罪のざわめきが、
夜の闇に溶け込んで、
遥か名も無き石碑に止まる時、
飛んでいる梟の、涙が椿の葉に静かに落ちる。
軋み出している夜の断片は、
静寂の声を搾り上げる。
季節が年輪を重ねて、
儚い今日の残りを刻んでも、
夜の皮膚の内壁を照らしていた無言の月は、
細かく剥落してゆく媚びた引力を溶かして、
鮮やかな数式の夢の扉を開く。
夜はすくすくと立って、
映る現象を先鋭な明るい闇に誘い、
更に深い夜の中に身を投じてゆく。


自由詩 夜の情景 Copyright 前田ふむふむ 2006-02-07 07:45:24
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