COLD HEAVEN
ヤギ

1.太陽

子どもの頃はどこまでも強くなれると信じていた
長く長く生きた木が太く深く育つように
毎日きびしく生きていればきっと強くなれると
新しい弱さを知ると、それを克服しようとさらにきびしく節制した
あるとき、自分がすっかり大人になっていることに気がついた
だけど俺はこんなにも弱い
他人の弱さを笑い、強さを認められない
愛すればその見返りを求め
ひとつの間違いを許せない
多分、自分以上に人を愛せないんだ
子どもの頃と比べて、一体どれだけ強くなったんだろう
俺のしてきたことは全て無駄だったのだろうか
生まれてはじめて、自分は見放されていると感じた
目の前が暗くなりこれが絶望なのだと思った
暗い井戸の底でひとり頭を抱え
どうやって生きればいいのか判らなくなったとき
光が射した
やっぱり強くなりたい



2.砂の時計

敷石はクレバスのように冷えた
僧たちはついに靴をも失い、修道服で体をぴっちりとおおい、身を寄せ合い
数本残ったロウソクを、幾本かずつ灯していた
一番若い僧が言った
「私たちはこのまま死ぬのでしょうか」
誰も答えなかった
皆静かに息を吸い、静かに息を吐いた
一人が言った
「私には今まで聞く勇気がなかった。しかし今聞こう。愛とは与えることという。ただ与えよと。私たちは神を愛す。しかし現実には神は何もしない。これは愛だろうか。ただ与えることは本当に愛なのだろうか。愛はひとりの中にあるのだろうか、ふたりの中にあるのだろうか。」
誰も答えなかった
沈黙は眠りのように続いた
聖堂に満ちた冷気はしかし沈黙よりわずかに重かった
一人が応えた
「ひとりの中にあると答えることは人と人の愛を否定することになる。ふたりの中にあると答えることは神の愛を否定することになる。」
「そうだ。」
そのとき、一番若い僧の顔色がみるみる青白くなっていった
それまで黙っていた別の僧はすくと立ち上がると椅子を手にとって地面に叩きつけた
二三脚叩き割ると、バラバラになった椅子の脚を組み、聖書をビリビリと破ってロウソクで火をつけた
周りのものは驚いて声を出せずそれを手で制した
聖書をくべる僧はそれに構わずなおもくべ、言った
「神はお許しになる」
さらに言った
「愛はどこかにあるのではない。お前が生み与えるのだ。」



3.夜間飛行

まるで氷の化石だ
僕はすっかり閉ざされてしまって
もうすぐ眠るだろう
ここにいたのは悪魔ではなかった
ここにいたのはひどく厳しい神だった




自由詩 COLD HEAVEN Copyright ヤギ 2006-02-03 02:02:25
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