終着駅から始まる眠り
千月 話子

昨日 切り捨てられた廃線の
駅 構内には
まだ暖かな気が
そこら中に点々と赤味を帯びて
揺れ立っているというのに


朝に 幕
夜には 鉛の月影が
ゆっくりと光りを奪っていくのだと
思い知る
高架下の生暖かいストーブと
果てない話 聞く振りをして


眠らない電車よ
眠れない私の頭上にくっ付いて
どこまでも追いかけてくるのか
息苦しい窓を少し開けて
冷気と夜の空は澄んでいるというのに


あの廃線の静かな街を想い
その重い車体に鞭打って
悲鳴を上げて叫んでいるのか
それならば 憎まないから
それならば 嫌いにならないから


眠らない電車よ
その叫びを子守唄に替えて
眠れない私の頭上から
緩やかにやって来て
通り過ぎるなり
深く足首に絡み付き
コトコトと
思い出の場所へ運んでおくれよ


私達の夜は そうして
互いを慰めながら
平和へと変わって行くのだから


・・・・・・・・・・・

何も無い駅は夜の夢
線路を眺める木目のベンチで
亡霊でもない
美しい姿をした女が
足を揃えて座っておりました
うつら うつらと
歌っておりました


この終着駅に 進む線路は無く
この終着駅で 夢へと切り替わる
それは 上昇するでもなく
    下降するでもなく

宙ぶらりん と

靄の彼方へと
続いておりました

・・・・・・・・・・・






自由詩 終着駅から始まる眠り Copyright 千月 話子 2006-02-01 23:05:13
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